取引先から「仕事にAIを使っていますか」と聞かれたら、利用の有無だけで終えず、預かった情報のうち何を入力するか、どのサービスをどの契約で使うか、出力を誰が確認するかを答えます。図面、名簿、見積の入力可否は、資料名だけでは決まりません。取引先との契約、入力する中身、サービスの条件を確かめ、未確認ならその情報の入力を止めてから説明します。
取引先には「入力・サービス・確認」の3点で答える
返答の前に、自社の利用状況を案件単位で確かめます。「AIを使っていません」と答えるのは、対象業務で実際に使っていないことを確認できた場合です。下書きだけAIを使い、最終文書を人が作っているなら、その利用も隠さず範囲を伝えます。

次は架空の編集見本です。実在の取引先への回答でも、AIが作った文章でもありません。角括弧は、自社で確認した内容に置き換えてください。
当社は[対象業務・工程]で[AIサービス名、契約主体、プラン、適用する規約・契約の版]を補助的に使っています。[取引先から預かった情報のうち入力する種類と範囲]を入力し、[入力しない種類]は入力していません。出力は[担当者・役割]が[原資料との照合点]を確認してから、成果物に反映します。[契約またはサービス条件で確認中の事項]については確認を終えるまで対象資料を入力せず、[確認担当]が[確認期限]までに確認し、[回答予定日]に結果をお伝えします。
「入力しない」と書くなら、添付ファイルだけでなく、チャット本文、外部連携(メールやクラウドストレージなどをAIにつなぐ機能)、履歴に対象情報が流れていないかも確認します。「利用していない」と書くなら、従業員の私用アカウントや外注先での利用状況も、回答の対象範囲に応じて調べます。「AIサービス名」は単なる「生成AI」ではなく実際の製品名と契約プラン名まで書きます。確認できないことは「未確認」と伝え、調べる対象と担当者を示してください。完了日を約束できない場合も「[次回連絡日]に進捗と次の予定をお伝えします」と連絡日を決めます。
出力の確認者は「人が確認します」だけでなく、図面なら寸法と版、見積なら数量・単価・条件など、何をどの原資料と照合するかを決めます。AIが出した数値や文言のまま取引先へ送る運用なら、上の見本をそのまま使えません。出力の確認工程を整える際は、AI出力の誤りを人が確認するルールも参照してください。
図面・名簿・見積は「資料名」だけで入力可否を決めない
同じ「図面」でも、公開済みの製品図と、取引先から預かった未公開の設計図では確認する約束が違います。氏名を消した資料も、寸法・案件名・価格などから取引先や個人が分かる可能性が残ります。下表は入力を許可する基準ではなく、取引先への説明前に中身と確認先を分けるための編集上の表です。

| 預かった資料 | 入力前に見る中身 | 入力していないと確認できた場合の説明例 |
|---|---|---|
| 図面・仕様書 | 未公開の形状・寸法、顧客名、案件番号、改訂履歴やコメントが含まれるか | 「預かった図面は入力対象から外し、入力が必要な用途は契約と条件を確認中です」 |
| 名簿 | 氏名、連絡先、所属などの個人情報と、利用目的・AI側での取扱い | 「名簿は入力していません。必要性と取扱条件を確認するまで対象外です」 |
| 見積・単価表 | 価格、仕入先、数量、取引条件など、公開していない情報が含まれるか | 「実際の見積は入力せず、書式の検討には実案件と無関係の見本だけを使います」 |
表の右列は現在その運用をしている会社だけが使える文例です。履歴を確かめられない段階では「入力の有無を確認中です。確認を終えるまで新たな入力は止めています」と伝え、確認担当と次回連絡日も示します。すでに入力していた場合は、どの情報を、どのサービス・アカウントに、いつ入力したかを確認し、契約や社内手順に沿って取引先への連絡要否を判断します。初動の整理には生成AIの情報漏えい対策を参照できます。個人データが含まれていた場合の報告・連絡の要否は、事実関係と適用される契約・法令を確認し、必要に応じて専門家に相談してください。
個人情報保護委員会の生成AIサービスに関する注意喚起(2023年6月、2頁)は、個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確認するよう示しています((1)①)。別に、同事業者が本人の同意をあらかじめ得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で扱われる場合は、法令違反となる可能性があるとして、機械学習に利用されないことなどを十分に確認するよう促しています((1)②)。二つの注意点は対象となる情報と条件が異なります。名簿の具体的な扱いは中身と利用目的、契約を確かめ、必要に応じて専門家に相談してください。
IPAのAI利用者向けセキュリティ資料にも「クラウドAIに営業秘密は教えない」という項目があります。この見出しを個別資料の法的分類に使うのではなく、預かった技術情報を安易に送らないための確認点として扱います。
AIサービスの条件と取引先との契約を別々に照合する
「学習に使われないサービスです」という説明だけでは、取引先から預かった情報を入力できるとは決まりません。取引先との約束と、自社が実際に使うAIサービスの条件を別々に確認し、回答文の範囲をそろえます。

秘密保持契約・取引基本契約で見る箇所
秘密保持契約、取引基本契約、個別の発注条件を並べ、次の文言があるかを契約担当者(いなければ経営者自身)と確認します。下記は確認箇所の例であり、すべての契約に共通する条項や、AI利用を自動的に許可・禁止するルールではありません。
- 秘密情報の定義と、図面・名簿・見積が対象に入る範囲
- 情報を使ってよい目的と、複製・加工・外部サービスでの処理に関わる条件
- 第三者への開示・提供、委託や再委託、外部サービス利用に関わる条件
- 事前通知・承諾が必要になる場合の文言と、相手方に確認する窓口
たとえば「第三者への提供に事前承諾が必要」と読める文言があっても、特定のAIサービスへの入力がその条項にどう当たるかは、ここでは判定できません。該当条文と実際の処理方法を示して取引先の契約窓口へ確認し、解釈が難しければ弁護士へ相談してください。
サービス名に加えてプラン・保存・閲覧を確かめる
2026年10月6日に確認したOpenAIの事業向けプライバシー説明は、ChatGPT Business・Enterprise・Edu・HealthcareとOpenAI API(自社システムなどからAIを呼び出す仕組み)などの事業データを既定ではモデル学習に使わず、明示的に共有を選んだ場合は例外になり得ると説明しています。同日に確認したAnthropicの商用製品向け説明も、Claude for WorkとAnthropic APIなどの入力・出力を既定では学習に使わず、フィードバック送信や明示的に利用を認めた場合に例外があるとしています。同資料は個人向けのClaude Free・Pro・Maxを対象外とし、別資料へ案内しています。
この説明を、個人用アカウント、別会社の連携製品、すべての契約へ広げないでください。学習不使用と、保存期間、人が見られる範囲、外部連携は別の条件です。ChatGPT Businessの公式ヘルプは、各利用者の会話履歴は他のメンバーに自動的には見えないと説明します。一方、OpenAIの事業向けプライバシー説明のBusiness欄には管理者による会話の閲覧・取得などの記載があり、Businessの別の公式FAQは、管理者・オーナーが既定で全メンバーの私的な会話を見られるわけではないと説明しています。これらの記載から自社の管理者の実際の閲覧範囲を断定せず、契約・設定と提供元への確認を踏まえて回答してください。
同じOpenAIの説明ページでも、Enterprise・Edu・Healthcare欄は管理者がCompliance API経由で会話などの監査ログにアクセスできると記し、Business欄とは説明が異なります。Business欄は、OpenAI側の閲覧を所定の目的を持つ権限者と、悪用調査を担う守秘・安全上の義務を負った専門委託先に限定すると説明します。また、削除・未保存の会話は原則30日以内にシステムから除去される一方、法令上の必要やサービス・第三者の保護のために長く保持する例外を示しています。OpenAI APIの保存条件も同ページで別に説明されています。利用する製品の該当欄と、自社の契約書・管理画面(契約プランや設定を確認する画面)・連携設定を確かめます。
確認が終わるまで、次の状態では対象情報をAIへ入力せず、取引先への回答も断定しません。
| 止める状態 | 取引先へ伝える内容 |
|---|---|
| 契約の入力可否や通知・承諾条件を確認できない | 対象情報の入力を保留し、契約窓口へ確認中と伝える |
| 利用サービス・プラン・外部連携先を特定できない | 入力履歴とサービス条件を確認中と伝える。入力がなかったと確認できた場合に限り、預かった情報は入力対象にしていないと説明する |
| 出力を原資料と照合する担当者を決めていない | 成果物へ反映する前の確認方法を決めるまで利用を保留すると伝える |
回答前は、現場の担当者が入力履歴を確かめ、契約を管理する責任者(いなければ経営者自身)が取引条件を読み、AIアカウントの管理者がプラン・設定・連携先を調べます。兼任でも構いません。最後に回答責任者が事実と回答文を照合し、相手先への連絡日を決めます。回答を更新するときは、確認した契約の版、サービスのプランと設定、入力範囲、出力確認者、確認日を社内に残します。相手先に提示する範囲は、質問内容と契約に合わせて決めてください。本稿は一般的な情報提供です。個別の契約解釈、通知・承諾の要否は、該当する契約と事実関係をもとに弁護士などへご確認ください。