社員が私用アカウントの生成AIへ顧客情報を入れていたと分かったら、まず追加の入力を止め、管理担当者へ連絡します。そのうえで会社が決めたいのは、使えるAIの入口、入力してよい情報、迷ったときの相談先です。禁止の通知に、この3つを添えます。
会社の承認や管理の外でAIを業務に使う状態を、ここでは「シャドーAI」と呼びます。個人で有料契約していても、会社が確認した利用環境とは限りません。正規の入口は全社員へのアカウント配布だけでなく、承認済みの環境を使う担当者へ依頼する窓口でも作れます。
RIZAPの事例で確認できること
RIZAPは2026年9月3日、社員がデータ集計中に、個人で使用する外部の生成AIサービスへ顧客情報を誤ってアップロードしたと公表しました。対象は特定保健指導のデータで、氏名や保険証記号番号のほか、疾患情報なども含まれていました。RIZAP公式発表「1. 発生の概要」

同社は、サービス事業者以外の第三者による閲覧と、生成AIの学習利用の可能性はないと説明しています。一方、その事業者の役職員等が閲覧可能な状態だった可能性は確認中としています。「誰にも見られる可能性がなかった」と読み替えないようにしてください。RIZAP公式発表の冒頭・「2. 現在の対応状況」
再発防止策には、許諾していない生成AIの業務利用禁止の再周知に加え、教育、アクセス権限・利用環境の見直し、AIの管理体制を整える仕組みの導入検討が挙げられています。RIZAP公式発表「3. 今後の対応および再発防止策」
この発表から、社員の動機や、社内に正規のAIがなかったとは判断できません。自社に引き寄せるなら、「集計したいとき、社員が承認済みの手段へたどり着けるか」を確認する材料になります。以下は、この問いに答えるための運用提案です。
顧客情報を入れていたら、利用停止と社内連絡を先にする
誤入力を見つけた担当者に、被害の有無まで一人で判断させない運用にします。追加送信を止め、いつ・どのサービスとアカウントに・どの情報を送ったかを管理担当者へ伝えます。調査が終わるまで社内連絡を待つ必要はありません。

管理担当者は、送信日時、対象ファイル、情報の種類、対象人数、共有リンクの有無、実施済みの操作を記録します。記録の閲覧者を絞り、顧客情報を全社チャットへ貼り直さないようにします。管理担当者は、次の順に対応を指示します。
- 送信内容・ファイル名・送信時刻・共有範囲を、アクセスを絞った社内の記録先へ保全します。必要な画面も保存します。
- 保全したうえで、共有リンクの停止と、履歴・アップロードファイルの削除を速やかに進めます。削除した対象と時刻も記録します。
- サービス提供者へ、保存・閲覧・学習利用の状況と、削除後に残るデータの扱いを照会します。画面から消えたことだけで、サービス側の消去完了とは判断しません。
不正持ち出しの疑いなど、削除が調査を妨げうる場合は、削除前に法務担当者や弁護士へ確認します。共有停止など拡散を防ぐ対応は、調査と並行して進めます。
「学習に使われない設定だった」だけで対応を終えません。個人情報保護委員会は、個人情報を入力する場合に利用目的の達成に必要な範囲か確認することや、本人の同意なく個人データを入力する場合に、機械学習への利用など応答以外の取扱いを確認するよう注意喚起しています。生成AIサービスの利用に関する注意喚起等・2ページ(1)
外部へ送っただけで、すべてのケースに同じ報告義務が生じるとは断定できません。ただし、病歴などの要配慮個人情報を含む個人データの漏えい等は、そのおそれの段階でも報告対象です。管理担当者は個人情報保護委員会の報告対象・対応案内を確認し、法務担当者や弁護士と報告・本人通知の要否を速やかに判断します。
本記事は一般的な情報提供です。個別の法務判断は弁護士などの専門家にご確認ください。
正規の入り口は、直接利用と依頼窓口から選ぶ
正規の入り口とは、会社がサービス・契約・設定と利用範囲を確認し、利用者と管理担当者を決めた経路です。業務で使いたい人の頻度と、入力情報を確認できる人の配置から、直接利用か依頼窓口かを選びます。

| 選択肢 | 向いている状況 | 用意するもの |
|---|---|---|
| 会社管理のアカウントを個別に配る | 日々使い、本人が入力可否と出力を確認できる | 利用者別のアカウント、許可業務、停止・削除の管理者 |
| 承認済み環境を使う担当者へ依頼する | 利用が少ない、または入力前の確認を担当者へ集めたい | 依頼先、代理担当、返答期限、依頼に載せてよい情報 |
| 対象業務を保留し、既存の方法で処理する | 契約・設定が未確認、顧客情報を外さないと処理できない | 従来の集計手順と、再検討する責任者 |
窓口方式では、社員へ共通パスワードを渡す運用にしません。承認された担当者が自分のアカウントで処理し、依頼者・用途・確認結果を残します。たとえば「翌営業日までに受付結果を返す」と社内で決め、間に合わない依頼は従来の方法へ戻します。返答期限は会社が決める作例であり、製品の機能ではありません。
会社契約という名前だけで顧客情報を入力可にしないでください。承認前に、管理担当者が次を契約書、利用規約、プライバシーポリシーと管理画面で確認し、確認日と設定を記録します。記載が見つからない条件は、サービス提供者へ書面で照会します。
- 入力・添付データが学習など応答以外の用途に使われる条件
- 保存期間、削除方法、サービス側で閲覧できる人の範囲
- 共有リンクや外部サービス連携の許可範囲
- 利用者の追加・停止、取得できる操作記録の範囲
条件を確かめられない情報は、入力対象から外します。保存・共有・連携までの確認方法は、生成AIの情報漏えい対策と入力情報の分け方を参照してください。
顧客データを渡さず、集計手順を依頼する作例
集計が目的でも、顧客の元データをAIへ渡す必要があるかは別に考えられます。架空の依頼例なら、「実在のデータは添付せず、架空の列名『区分・件数』を使って表計算の集計手順を説明してほしい」と頼み、実データの処理は承認済みの社内環境で行う方法があります。AIの回答は実行前に担当者が確認します。列名自体が機密の場合もあるため、実際の項目名をそのまま使わない作例です。
禁止通知に、使える入口と相談先を書き足す
周知する社内ルールは、「私用アカウントでの業務利用を禁止する」だけで終えず、代わりにどこへ行けばよいかまで書きます。次は、顧客情報を扱う営業事務の集計・文案作成を想定した、架空の社内通知の編集見本です。

生成AIの業務利用について(社内通知の作例)
業務には会社が承認したサービスとアカウントだけを使います。私用アカウントや未承認サービスでの業務利用は禁止します。
承認済みサービスとログイン先は、社内ポータルの「業務用AI」に掲載します。利用権限がない人は、管理担当へ用途を伝えて依頼してください。
当面の入力対象は、公開済みの商品説明と、実在の顧客・案件に基づかない架空の集計例です。顧客名簿、商談メモ、健康情報、未公開の見積・契約情報は入力しません。氏名を消しただけの資料も、自己判断で入力しないでください。
外部連携と共有リンクの作成は、管理担当が承認するまで使いません。回答を社外へ出す前に、担当者が原資料と照合します。
判断に迷う情報は送信を止めて管理担当へ相談します。誤入力した場合は追加送信を止め、サービス名・送信時刻・情報の種類を直ちに管理担当へ連絡してください。顧客データ自体は連絡用チャットへ貼らないでください。
この見本を配る前に、社内ポータルの実際の場所、サービス名、管理担当者名、代理者、連絡先を埋めます。窓口がまだ作れていなければ、「開設までは従来の方法で処理する」と伝えてください。通知の記載と、社員が使える状態を一致させます。
経営者と管理担当者は、顧客情報を含めない依頼を1件受け付け、入口に到達できるか、返答できるかを確かめてから対象を広げます。直接配布の人数で迷う段階では、AIツールを全員に配るか一部に絞るかの判断方法が次の検討材料になります。