自社サイトの写真を誰が用意したか分からない。SNS担当者は「AI画像だから使える」と言い、チラシの制作会社からは完成データしか届いていない。そんなときは、裁判の結論を待たず、画像ごとに出所・利用許諾・生成過程を確かめる棚卸しを始めます。
AIを使ったという理由だけで、画像の著作権が一律に否定されるわけではありません。自社で生成した画像も、既存作品を侵害しないかの確認は別に必要です。以下の画像台帳は、サイトや販促物を管理する担当者が、確認済みの資料と不足資料を分けるための作例です。
美容サロンの裁判報道で、確定していないこと
2026年9月の報道では、画像を制作・販売する株式会社Saiが、美容サロン側による画像の無断使用を訴えています。ただし、提訴されたことと、著作権侵害が認められたことは別です。2026年9月23日時点で、確認した公開資料から本件の判決は確認できておらず、結論は未確定として扱います。

産経新聞の9月8日報道とTBS NEWS DIGの9月16日報道は、画像の著作物性を争う訴訟を伝えています。TBSの見出しにある「日本初」は同社の報道表現であり、この記事が国内の全訴訟を調べて確認した事実ではありません(両記事は2026年9月23日確認)。
株式会社Saiの発表は、同社が生成AIを利用して制作し、美容室向けに販売すると説明する画像について、次の経緯を示しています。以下はいずれも当事者の説明です。
- 5月29日:美容サロン側が東京地方裁判所へ、損害賠償を支払う義務がないことの確認を求めて提訴。
- 7月8日:Saiが大阪地方裁判所へ、著作権侵害行為の差止めと画像データの廃棄等を求めて提訴。
- 8月18日の発表時点:先行する東京の訴訟について大阪地方裁判所への移送(審理する裁判所を移すこと)が決定したと説明。Saiは、その訴訟で反訴(訴えられた側が同じ手続きで相手を訴え返すこと)を起こして損害賠償を請求する予定とも述べています。移送決定の日付や、反訴を実際に提起したかは、この発表からは確認できません。
日付はいずれも2026年です。Sai「訴訟の概要・事件の概要」(2026年9月23日確認)
| 分けて読む事項 | 報道・当事者発表が伝えている主張・状況 |
|---|---|
| 画像販売会社側の主張 | 制作過程で人が創作に関わった画像に著作権があり、無断で掲載されたとしている(Sai発表・報道) |
| 美容サロン側の主張 | TBS NEWS DIGの報道によれば、問題となるAI生成画像に著作権は存在しないとして争っている |
| 司法判断 | 執筆時点で判決は確認できず |
報道中の画像を見ただけで、創作の経緯や利用許諾の有無までは判断できません。自社の画像について先にできるのは、誰から入手し、どの条件で、どこに掲載したかを資料で説明できる状態にすることです。
著作物性と著作権侵害は、別の問い
「その画像自体が著作権で保護されるか」と「その画像を作り、使う行為が他人の権利を侵害するか」を分けます。前者の著作物性は、作品として保護される性質のことです。自社の生成画像が保護されるか未確定でも、後者の確認を省く理由にはなりません。

AI生成画像にも著作権はあるのか
文化庁の2024年3月公表資料は、人の創作意図と創作的寄与、つまり表現を作るうえでの人の関与から、個別に判断する考え方を示しています。プロンプト(AIへの指示文)が長いことや、生成回数が多いことだけでは決まりません。具体的な表現の指示や、出力を見て行った修正などが検討材料になります。「AIと著作権に関する考え方について」印字39〜40頁(PDF通し40〜41頁)
そのため、棚卸しでは「AI製/人が制作」の二択だけを記録せず、入力・出力・加筆の履歴を残します。
自社で生成した画像でも、既存作品との関係を確認する
既存作品の著作権侵害では、類似性(創作的な表現の本質的な特徴が共通するか)と、依拠性(既存作品に基づいて作られたか)が問題になります。単に雰囲気が似ているかだけの比較ではありません。文化庁資料では、利用者が元作品を知らなくても、学習データにその作品が含まれている場合には依拠性が認められ得るとされています。類似性がなければ、その既存作品との関係で著作権侵害にはなりません。依拠性についても、個別の事情から否定される場合があります。同資料・印字32〜35頁(PDF通し33〜36頁)
侵害の判断には利用許諾や、許諾なしで利用できる例外規定の適用も関わります。「AIが作った」「サービスが商用利用を認めている」という確認だけで、第三者の作品との関係まで解決した扱いにしないでください。
なお、文化庁の「考え方」自体に法的拘束力はなく、個別事案の司法判断を置き換えるものではありません。同資料・印字2〜3頁(PDF通し3〜4頁)(2026年9月23日確認)。資料の追加・更新は文化庁「AIと著作権について」で確認できます。
自社サイト・SNS・チラシを、画像台帳でつなぐ
棚卸しは、現在公開中・配布中の画像と、次に掲載・印刷する画像から始めます。同じ画像をサイトとチラシに使っているなら、一つの画像IDに掲載先をひも付けると、差し替え時の見落としを減らせます。以下は著作権の観点で当社が提案する管理方法であり、法定の台帳ではありません。人物が写る画像の肖像権やモデルの掲載許諾など、著作権以外の権利・契約の確認は別に必要です。

掲載先を集め、元ファイルと資料を取り寄せる
まずは表計算ファイルの1シートに、下表の6項目を列として用意し、元画像1件につき1行で記録します。着手範囲は、たとえばトップページと主要な3ページ、次回のSNS投稿・チラシに使う画像です。販促担当を資料回収の担当、公開責任者を承認者として決め、初回の確認後に残りの掲載先へ広げます。
- サイト管理画面、SNS投稿一覧、配布中のチラシと印刷用データから、画像の掲載場所を拾います。サイトの背景画像のほか、予約サイトなど社外の掲載先も対象にします。
- 元ファイルに画像IDを付けます。切り抜き・色変更などの加工版は枝番を付け、元画像との関係を残します。
- 社内の制作者や制作会社へ、入手先、購入・許諾資料、AI利用の有無を照会します。支払明細だけで終えず、実際の掲載媒体を許す条件まで確認します。
- 資料を台帳から開けるように保存します。不明な欄は推測で埋めず、「出所未確認」「許諾範囲を照会中」のように不足内容を記します。
画像を見てAI製かどうかを判定する必要はありません。まず入手・制作を担当した人に確認します。外注先への依頼文は、たとえば「画像ID A-01について、入手元URLまたは制作者、利用可能な媒体、加工の条件、AIを利用した場合の生成・編集履歴を、確認できる資料とともに共有してください」とします。これは架空の照会文の見本です。
台帳に残す項目
| 項目 | 記入する内容 |
|---|---|
| 画像ID・原本 | 社内の管理番号、元ファイル、加工版との関係 |
| 掲載先 | ページURL、SNS投稿URL、チラシ名・版、公開・配布期間 |
| 出所 | 制作者・納品者、素材の入手元URL、入手日、素材番号 |
| 利用許諾 | 契約・規約の版と保存先、商用利用、媒体、加工、クレジット等の条件 |
| 生成過程 | AI利用の有無、サービス・モデル(AIの種類・版)、生成日、プロンプト、入力画像の入手元・利用条件、採用出力、編集履歴 |
| 確認と対応 | 類似画像等の確認方法・日付・結果、未解決点、担当者、期限、承認者 |
文化庁の2024年7月公表の業務利用者向けガイダンスも、利用規約の確認、利用前の既存作品との類似確認、プロンプトなど生成過程を確認可能にする取組みを示しています。「チェックリスト&ガイダンス」印字18・20・21頁(PDF通し19・21・22頁)・3-1-1、3-1-5、3-1-7(2026年9月23日確認)
画像検索を使う前に、検索サービスへ画像を送信してよいか、社内ルール・契約・サービスの保存条件を確認してください。顧客写真や未公開素材は、承認を得ずにアップロードしません。入力・保存先の決め方は生成AIの情報漏えい対策が参考になります。
送信してよい画像は、たとえばパソコンのGoogle検索画面で「画像で検索」アイコンを開き、「ファイルをアップロード」で画像を選ぶか、「画像リンクを貼り付ける」に画像URLを入力して検索します。操作はGoogle公式ヘルプで確認できます。各サービスの保存条件も送信前に確認してください。検索後は、似た画像が載るページを開いて、出所と利用条件を確認します。見つかったページのURL、検索日・方法、気になった共通部分を台帳へ残します。送信できない画像は、素材番号や納品資料から入手元をたどります。検索結果がないことは「権利侵害なし」の証明にはならず、似た画像が見つかっただけでも侵害とは断定できません。
一つの画像を記入した見本
以下は架空の小売店の作例です。実際の顧客事例や検証結果ではありません。
画像ID:A-01(加工版:A-01-web、A-01-flyer)
掲載先:自社サイトの店舗紹介/秋のチラシ第1版
原本:社内共有の「画像台帳/A-01/原本」
入手元:外注デザイナーから納品、素材の出所は照会中
許諾資料:見積書のみ。サイト・印刷物への利用条件は未確認
生成過程:AI利用の有無と、利用時の履歴を納品者へ照会中
確認結果:出所資料がないため掲載承認を保留
確認日・承認者:2026年9月23日/公開責任者(掲載判断は保留)
次の対応:販促担当が資料を回収。既掲載分の扱いは責任者へ即日相談
期限:9月25日に資料回収。未回収なら9月28日の入稿前に確認済み素材へ差し替え
これは「違法な画像」と判定した記録ではなく、何が足りず、誰が次に動くかを残した記録です。資料が届いたら、該当する素材番号と利用条件を照合して更新します。規約のURLだけでなく、入手時の条件が分かる版・確認日も残してください。
確認結果で、継続・保留・差し替えを決める
台帳を埋めた後は、画像の利用を続ける条件と、確認が済むまで進めない範囲を決めます。以下は公開管理のための運用区分です。著作権の有無や侵害の成否を採点する表ではありません。

| 状態 | 社内で取る対応 |
|---|---|
| 出所と利用条件を資料で確認でき、用途が範囲内で、未解決の懸念がない | 承認者が継続・掲載を判断し、判断日と資料を台帳へ残す |
| 出所、許諾の範囲、必要な生成履歴を確認できない | 新規掲載・再投稿・増刷を保留し、資料回収の担当と期限を決める。既掲載分は放置せず責任者へ相談する |
| 許諾範囲外の利用が分かった、既存作品との強い類似などの懸念が残る | 公開・配布の停止や差し替えを責任者が検討する。判断が難しければ資料を添えて弁護士へ相談する |
期限までに根拠がそろわない画像は、利用条件を確認済みの素材への差し替えを検討します。AIで作り直す場合も、新しい画像について入力素材・生成過程・出力の確認が必要です。
公開先を直しても、記録は消さない
差し替えるときは、台帳にひも付いたサイト、SNS、配布前の印刷物まで確認し、処理した場所と日時を残します。サイトから消しただけで、予約サイトやSNS投稿まで直ったことにはなりません。配布済みのチラシがある場合は、配布先・時期・残部を把握して責任者へ伝えます。
権利者から連絡が来た場合は、通知、当時の掲載状態、原本、契約、生成履歴を保全し、責任者と弁護士へ相談してください。公開停止と社内証拠の削除を混同しないでください。相手への返答や支払の要否など、個別紛争の判断はこの台帳だけでは決められません。
文化庁ガイダンスは、社内ルールとともに、問題発生時の情報共有、停止・復旧、権利者への対応などを事前に検討する取組みを示しています。同ガイダンス・印字19頁(PDF通し20頁)・3-1-2。生成AI全体の確認者・承認者・記録の役割は、AIの誤回答に備える社内ルールにもつなげられます。
まず、今掲載している画像を一つ選び、出所と許諾資料をたどってみてください。資料が見つからなければ、台帳に不足内容、回収担当、期限を残すところまで進めます。
本記事は一般的な情報提供です。個別の法務判断は、弁護士にご確認ください。